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2018.10.03

第15話 サバ缶ブームに見る、「足元にある宝物」の活かし方

北村森の「今月のヒット商品」

サバ缶がいま、空前の人気となっています。
4年前にはすでにツナ缶の生産量を逆転していて、去年は大差をつけ、魚介類の缶詰のトップを走っています。

大手缶詰メーカーのなかには、一昨年度に比べて、今年度の生産量を2.5倍に増やすところもあるそう。このメーカー、7月のサバ缶の売上高は去年の2倍にも上ったらしい。確かにサバ缶は美味しい。でも、どうしてここまでのブームを招いたのか……。

よく言われるのは、消費者の健康志向ですね。サバに含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が、認知症や動脈硬化の予防につながりそうという話。でも、それだけ?

いや、他にもありそうです。まず、生のサバを調理するのって面倒じゃないですか。さばくのもそうだし、切り身で買ってきたとしても、臭みを取る下処理ひとつ、手間ですよね。サバ缶だったらフタを開けるだけ。ラクです。

そしてなにより、多彩な味のラインナップが、ダメ押しした感があります。ツナ缶の場合、調理の素材に使うケースが多いですが、サバ缶では、そのまんま食べられる味付けを凝らしたものが、たくさん出ている。そこが大きい。

しかも、1缶200円前後から、1000円近いものまで、選び放題というのは楽しいところ。慣れ親しんだサバの味にプラスアルファの面白みがあるというのも、購入するのに抵抗ない部分でしょう。完全な未知の味だと、手を出しづらいものです。
実は、私が本当に言いたい話は、まだあるのですが(それこそが重要と思っています)、それは最後に綴ることにして、ここでいったん、冒頭に載せた画像にある3つの商品を説明しますと……。

まず、左側の缶は、「Ça va」(岩手県産)。フランス語の「サヴァ?」とは「元気?」という意味ですね。それとサバを引っ掛けた。これ、ネーミングの面白さだけではなく、オリーブオイル味、そしてレモンバジル味など、食べる人を、おっ!と惹き込むものになっています。値段は400円前後。

右側の缶は、「国産寒さば木頭ゆず水煮」(黄金の村)。徳島県の地元産ユズを組み合わせたものです。こうしてサバの産地とはまた異なる地域産品を使った缶に仕上げる、という手もあるんですね。サバの懐の深さを感じさせます。こちらも400円前後です。

そして画像中央の、やけに縦長の缶なんですが、「さば水煮 銚子港水揚げ」(高木商店)といいます。千葉の銚子港に挙がったサバを丸ごと1匹分詰め込んだ、というのが謳い文句です。メーカーの希望小売価格は540円なのですが、品切れが続いていて、一部のネットショップでは1200円ほどのプレミア価格を付けているとこともあります。

缶の中に、どんなふうにサバが入っているのか……。

3缶買い込んで、それぞれを開けてみたのですが、そのなかの1つが上の画像のような感じ。筒切りしたのが、そのままドンっと収まっていました。個別の魚体の大きさなどにもよるのでしょう、ほか1つは、筒切りしたのをさらに半分(半円状)に切った状態でしたし、さらにもう1つは、魚体の前後を筒切りで分けた感じで収まっていました。

いずれにしても、これは迫力がある。

さて、私が言いたい話、というのは何か。

先ほどお書きしたのは、サバ缶人気の理由として、多くの人がすでにしばしば指摘している部分ですね。

私、もうひとつ、どうしてもお伝えしておきたいことがあるんです。

10年前まで、人はサバを大事にしていたのか、という話。先ほども少しお伝えした、青森の八戸でのお話なんです。美味しいサバが獲れることでも、また、サバの高級缶詰が作られていることでも、いまや有名な八戸ですけれど、10年ちょっと前まではどうだったか……。

地元の業界関係者に聞いてみたら、何の注目も集めない存在だったといいます。
港に行くと、荷箱からこぼれ落ちたサバが地面で跳ねていても、誰も見向きもしないような状況だったと聞きました。値段は安いけれども、地元庶民が普通に消費する魚、それも「えっ、今晩のおかずは、またサバなの?」といったふうに飽き飽きされているものだったとか。

それが変わったのは、2006年のことだったらしい。この街に赴任してきた1人の大学教員が、なんだこれは、と気づいたそうです。八戸のサバって驚くほど安い値段で、しかもすこぶる旨いじゃないか――。

ここからが大学教員らしい話ですが、彼は試験場にサバを持ち込みました。そうしたら、八戸のサバは粗脂肪率が軒並み20%を超えていることが判明した。ごく一般的なサバの場合は12・1%ですから、2倍近い。

で、この大学教員が、地元商工会議所や飲食業界に働きかけて、八戸のサバの価値を見直す活動を始めました。地元の飲食店で積極的に扱ってもらうとか、缶詰を作っている地元メーカーに動いてもらうとか……。その結果、現在ではブランド魚に匹敵するほどの注目を集めるに至ったというわけです(上の画像は、八戸の横丁です)。

サバ缶がここまでの存在になるまでには、さして注目もされていなかったサバ自体の魅力を再認識すべく、こうして行動を起こした人も実はいたのですね。

ここから言える教訓とは……。

「地元の『足元にある宝物』を見落としてはいないか」ということだと、私は思います。

空前の人気となっているサバ缶のこと、ひとつ取っても、もともとあった価値(それは美味しさも、サバに含まれる成分もそうですね)、それを見直すきっかけは、今お書きしたように、地方のごくごく小さな動きから生まれたと言ってもいい。

サバ以外にも、また、魚介類以外でも、まだまだ次のヒットの目は、全国各地に埋もれているんじゃないかなあ、そう感じさせてくれる、サバ缶ブームの話でした。

講師紹介

北村 森(『日経トレンディ』元編集長/商品ジャーナリスト)

1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。商品ジャーナリストとして、 地方発の隠れた実力派商品を全国に紹介したり、 ヒット商品あるいは残念な結果に終わった商品から教訓を読み取り伝えている。「消費者がおカネで買えるものすべてを評価する」ことを旗印に、取材・執筆活動を続け、なかでも国...>もっと見る

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